Mail 

前々回に続いてメールの話です。

 何年か前から、メールに市場を奪われたという嘆きを聞く事が多くなりました。ついでに近ごろの若者は本を読まなく成ったという話もよく聞きます。

 果てしない物語の作者、ミヒャエル エンデが来日した時、同様の事を聞かれて、

「親たち自身は読んでいるのですか?」

 とインタビューアーを絶句させていました。まあそんなものです。本を読まなくなったとすれば、老いも若きもみんなで読まなくなったのに違いありません。

 メールは手紙です。他人様の書いた本より私信を優先するのはしごく当たり前のことなのです。みんなで手紙を書いたり読んだりしていると思えば、なかなか風流な話ではあります。

 あずま路の道の果てよりも、なお奥つ方に生ひ出でたる人、いかばかりかはあやしかりけむを

 今、更級日記を読んでいます。菅原たかすえの女(むすめ)は、なんと可憐な人でしょう。夢見てばかりいて、頭の回転が早くて、ちょっとわがままで、それでいて素直な優しい少女で。

 いにしえから日本人は、日記と手紙を愛し、重要な表現形式として大切にして来ました。ブログやメールが盛んなわけです。文化的遺伝子のなせる業かも知れません。

 いつの日か、ブログやメールの世界から、現代のたかすえ女が出現するのでしょうか。

 ところで僕はパソコンに向かうようになってから、ますます辞書を引かなくなりました。もう十年もすると、ひらがなしか書けなくなりそうで、心配です。